優越的地位の濫用に係るメモ

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第2条9号5号 
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

○運用基準関係 ― 5 不公正な取引方法等関係
金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について 公正取引委員会
この指針は、
第1金融機関の業態区分の緩和に係る不公正な取引方法
第2金融機関の業務範囲の拡大に係る不公正な取引方法
の2部から構成されている。
 第1においては、金融機関の問題となる行為を取引の強制等、競争者との取引の制限、不当な顧客誘引の3つの行為類型に分け、それぞれ業態別子会社方式及び持株会社方式において問題となる行為を列挙している。
 第2においては、金融機関自らが取り扱う業務範囲が拡大することに伴って問題となる行為を規定しており、金融機関による金融商品仲介業務に関し問題となる行為、銀行等による保険募集業務に関し問題となる行為、及び金融機関による投資信託等の販売業務に関し問題となる行為をそれぞれ列挙している。

これらのうち保険だけが「融資先企業又はその代表者等」となっている。

○金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書 公正取引委員会(平成18年6月)
●金融機関が借り手企業に対して行う各種の要請についての独占禁止法上の考え方
取引上優越した地位にある金融機関が借り手企業に対して,以下のような行為を行うことは独占禁止法上問題となる。
ア 融資に関する不利益な取引条件の設定・変更
 ・ 借り手企業に対し,その責めに帰すべき正当な事由がないのに,要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって,契約に定めた金利の引上げを受け入れさせ,又は,契約に定めた返済期限が到来する前に返済させること。
 ・ 債権保全に必要な限度を超えて,過剰な追加担保を差し入れさせること。
 ・ 借り手企業に対し,要請に応じなければ次回の融資が困難となる旨を示唆すること等によって,期末を越える短期間の借入れや一定率以上の借入シェアを維持した借入れを余儀無くさせること。
イ 自己の提供する金融商品・サービスの購入要請
 ・ 債権保全に必要な限度を超えて,融資に当たり定期預金等の創設・増額を受け入れさせ,又は,預金が担保として提供される合意がないにもかかわらず,その解約払出しに応じないこと。
 ・ 借り手企業に対し,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して,自己の提供するファームバンキング,デリバティブ商品,社債受託管理等の金融商品・サービスの購入を要請すること。
ウ 関連会社等との取引の強要
 ・ 融資に当たり,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して,自己の関連会社等が提供する保険等の金融商品の購入を要請すること。
 ・ 融資に当たり,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して,社債の引受けや企業年金運用の受託等の金融サービスの購入を要請すること。
 ・ 融資に当たり,自己の関連会社等と継続的に取引するよう強制すること。
エ 競争者との取引の制限
 ○ 借り手企業に対し,他の金融機関から借入れを行う場合には貸出条件等を不利にする旨を示唆して,他の金融機関から借入れをしないよう要請すること。
 ・ 自己の関連会社等の競争者との取引を制限することを条件として融資を行うこと。
オ 借り手企業の事業活動への関与
 ・ 要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって,自己又は自己の関連会社等の株式を取得させること。
 ・ 資金調達の選択又は資産処分に干渉するなど資金の調達・運用又は資産の管理・運用を拘束し,借り手企業に不利益を与えること。

金融商品取引業等に関する内閣府令(登録金融機関その他業務に係る禁止行為)
第151条1項3号
前二号に掲げるもののほか、自己の取引上の優越的な地位を不当に利用して金融商品取引契約の締結又はその勧誘を行う行為

銀行法施行規則(銀行の業務に係る禁止行為)
第14条の11の3 1項3号
顧客に対し、銀行としての取引上の優越的地位を不当に利用して、取引の条件又は実施について不利益を与える行為

保険業法施行規則(保険契約の締結又は保険募集に関する禁止行為)
第234条1項7号
特定保険募集人若しくは保険仲立人である銀行等又はその役員若しくは使用人が、当該銀行等が行う信用供与の条件として保険募集をする行為その他の当該銀行等の取引上の優越的な地位を不当に利用して保険募集をする行為

○具体的事例(「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(原案) 22年6月23日 発表より)
X銀行は,その年度末の総資産額が約91兆円であり,総資産額につき我が国の銀行業界において第1位の地位にある。
X銀行と融資取引を行っている事業者,特に中小事業者の中には,
・ 金融機関からの借入れのうち,主としてX銀行からの借入れによって資金需要を充足している
・ X銀行からの借入れについて,直ちに他の金融機関から借り換えることが困難である
・ 事業のための土地や設備の購入に当たってX銀行からの融資を受けられる旨が示唆された後,当該土地や設備の購入契約を進めたことから,当該融資を受けることができなければ他の方法による資金調達が困難であるなど,当面,X銀行からの融資に代えて,X銀行以外の金融機関からの融資等によって資金手当てをすることが困難な事業者(以下「融資先事業者」という。)が存在する。融資先事業者は,X銀行から融資を受けることができなくなると事業活動に支障を来すこととなるため,融資取引を継続する上で,融資の取引条件とは別にX銀行からの種々の要請に従わざるを得ない立場にあり,その取引上の地位はX銀行
に対して劣っている(平成17年12月26日勧告審決・平成17年(勧)第20号)。

X銀行は,融資先事業者から新規の融資の申込み又は既存の融資の更新の申込みを受けた場合に,融資に係る手続を進める過程において,融資先事業者に対し,金利スワップの購入を提案し,融資先事業者が同提案に応じない場合に
金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨,又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資の条件よりも不利な取扱いをする旨明示する
・ 担当者に管理職である上司を帯同させて重ねて購入を要請するなどにより,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨,又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資の条件よりも不利な取扱いをする旨示唆することにより金利スワップの購入を要請し,融資先事業者に金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を行っている(平成17年12月26日勧告審決・平成17年(勧)第20号)。